北海道の森林植物分布は低標高地から高標高地にかけて、「下部広葉樹林帯 → 針葉樹林帯 → ダケカンバ帯 → ハイマツ帯」へと特徴的に移行しています。
高山植物とは、一般的には森林限界を越えたハイマツ帯に生育する植物を指していますが、道北や道東などの海岸近くの高層湿原に分布する種も含まれています。
これら高山植物の北海道への分布経路を単純に考えると、氷期の海水面低下により陸続きとなって大陸から北海道に進入し、その後温度変化(間氷期)にともない、寒冷な気候条件を求めて高山へ移行し、現在みられるような分布パターンを形成した。といった過程が考えられます。
北海道の高山植物の多くは北方系起源と考えられていますが、主な進入経路として、
の3ルートが考えられます。大雪山はこれらの分布経路が交錯しているところです。
大雪山の高山帯は広大で、その高山植物群落の規模と豊かさは比類ないものです。現在、高山帯に分布する植物としては約250種類以上が記録されており、そのうち本当の意味での高山植物は約200種類とされています。これらの高山植物群落は一見モザイク状に分布しているように見えますが、その分布は立地の風衝・積雪・地形などと深く関連し、全体的には風上側より風下へと(高山風衝地群落→ハイマツ群落→高山雪田群落あるいは高山潤草原)移行しています。以下に大雪山系現存植物図概要(1981 伊藤・佐藤)を参考に、高山植生の構成群落を示します。
1.高山風衝地矮性低木群落
コメバツガザクラ ー ミネズオウ群集、ウラシマツツジ ー クロマメノキ群落。
2.高山礫原矮性低木・草本群落
エゾマメヤナギ ー エゾオヤマノエンドウ群集。
3.高山岩礫地草本群落
コマクサ ー タカネスミレ群集 1~3は高山風衝地に発達し、全体的に被植は少ない。高山帯の中でも最も気候条件が厳しいところで、冬季の積雪は少なく地面の露出するところが多い。多くは地下に永久凍土が発達している。
4.高山嫌雪低木群落
ハイマツ ー コケモモ群落、ハイマツ ー チシマザサ群落、ウラジロナナカマド群落。 ハイマツ群落で冬季は積雪に覆われている。風上側斜面では上部の積雪の少ないところでは、ハイマツ群落の丈は低く、下部の積雪の多いところでは丈は高くなる。
5.高山雪田群落
エゾノツガザクラ ー チングルマ群落、アオノツガザクラ群落、エゾコザクラ群落、イワイチョウ群落、ホソバウルップソウ群落、ミネハリイ群落、タカネクロスゲ群落、ミヤマクロスゲ ー チシマクモマグサ群落、ジンヨウスイバ群落。 風下側の積雪の多い場所に発達し、残雪は夏期遅くまで残る。
6.高山雪潤草原
チシマキンバイソウ群落、ハクサンイチゲ群落、ミヤマキンポウゲ群落。 風下側の積雪の多い場所で夏期の融雪が比較的早い場所に発達する。高茎草本類のお花畑で、多くは雪崩を発生しやすい急斜面に群落を形成しするが、五色ヶ原や黄金ヶ原などのような平坦地に広大な群落を作る。
以上のように立地環境の変化によって、高山植物の構成群落は異なっていますがよく観察すると、それぞれの群落を形成している種の構成はさらに変化していることが理解できます。これらの高山帯の厳しい自然環境の中で、長い時間と微妙なバランスのもとに形成されてきたものですが、高山植物の被害(特に登山者の踏み付け被害)が目立つようになりました。一度傷つけられた群落はなかなか元に戻らないばかりか、ますます傷が広がっていきます。高山植物群落が成立する微妙なバランスを理解し、高山植物を踏み荒らすことがないようマナーを守って、自然とのふれあいをお楽しみください。
大雪山の高山植物
※参考図書:北海道の高山植物(北海道新聞社発行)