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大雪山の高山蝶

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高山蝶のおいたち

 

高山蝶(高山昆虫)とは高山帯に自生する植物を高山植物と呼んだのと同じ発想から生まれてきたのでしょう。しかし、高山帯といっても一つの定義された高度が存在するわけではありません。北海道より北の高緯度地方ではその高度は低くなり、逆に本州の山岳地では高くなります。
高山帯と亜高山帯との境界は、普通は森林限界に設定されています。したがって高山蝶は、垂直分布的には森林限界より上部の環境(非森林的)で生息する蝶ということができるかもしれません。しかし、カラフトルリシジミのように海岸近くの高山植物群落地に分布する種も含まれています。

 

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北海道には5種(ウスバキチョウ、カラフトルリシジミ、アサヒヒョウモン、ダイセツタカネヒカゲ、クモマベニヒカゲ)の高山蝶が分布していますが、大雪山にはその全てが生息しています。そのうち本州との共通種はクモマベニヒカゲのみで、残りの4種は本州の高山には分布していません。しかし不思議なことに海を渡ったシベリア大陸や北米大陸にはいずれもその共通種が分布しているのです。この事実は、北海道の自然がいかに大陸と深く関わってきたかを物語っています。

 

過去の氷期(特に最終ウルム氷期)には海水面が低下していたため、日本列島は大陸の一部となっていたといわれています。そのため多くの生物は大陸から渡来してきたものと考えられていますが、地球が温暖化に向かったとき、まず北海道は津軽海峡によって本州と分離されました(ウルム氷期においても分離されていたという説もある)。しかし、比較的浅い海峡をもつ宗谷海峡や間宮海峡はなおしばらく陸橋として存続しており、その陸橋を通じて大陸-サハリン-北海道と生命の交流が続いていたものと考えられます。やがてさらに温暖化が進み、北海道が現在のように大陸と完全に分離されてしまうと、北方へ帰ることのできなくなった多くの寒地性の生物は、寒冷な気候条件を求めて高山へ高山へのぼりつめていきました。いま私達が「氷河期の落とし子」と呼んでいる高山蝶もこのような道をたどってきたのでしょう。

 

大雪山の高山蝶には、ウスバキチョウやアサヒヒョウモンなどのように、日本では大雪山のみに生息が限られている高山昆虫が分布していますが、このような高山昆虫は、その後の温暖期(特に約5000~6000年前の縄文時代の温暖期で、現在の気温より2℃ほど上昇していた)に重要な影響を受けているものと考えられます。例えば、日高山脈のような細い稜線上に発達する高山帯をもつ高山や羊蹄山や利尻山などの孤立した高山では、気温が上昇したとき高山地帯の縮小や分断がおこり、それに対応して高山昆虫の生息地は縮小・分断され、さらに地域によっては個体群の絶滅が生じたものと考えられます。しかし比較的に標高も高く広大な連続する高山帯域をもつ大雪山では、多くの高山昆虫の避難地域は残されており、その後の気温の低下とともに再び分布域を拡大することが可能であったのでしょう。

 

大雪山の高山蝶の生い立ちは、このような地史的背景をもとに形成されたものと考えられます。しかし、同じ大雪山系においても高山蝶の分布は一様ではありません。例えば、十勝岳連峰にはダイセツタカネヒカゲが、石狩川を挟んだ対岸のニセイカウシュペ連山にはウスバキチョウ、アサヒヒョウモン、ダイセツタカネヒカゲが分布していません。しかしいずれの地域にも高山蝶の食草(樹)は分布しているのです。そして、現在もっとも絶滅が心配されているのは十勝岳連峰や東大雪山系の高山蝶です。これらの地域の個体群は、北部・中部大雪山系とは低標高地によって高山帯域が分離されているため、すでに温暖期以後の長い期間を、生殖的に隔離された状態で孤立分化している貴重なグループです。

 

 

大雪山の高山蝶

 

ウスバキチョウ

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分布
北部大雪(ニセイカウシュペ山から武華岳までの山塊を除く)、中部大雪、東大雪、十勝岳連邦のコマクサの見られる高山風衝地に生息します。国外では朝鮮半島北部、ロシア東部、中国東北部、北米(アラスカ、カナダ)など孤立的に広く分布しています。
食草
コマクサ
出現期
6月上旬から8月上旬
経年経過
食草近くに産み付けられた卵は、そのまま冬を越し、翌年に孵化します。幼虫は、コマクサを唯一の食草として成長します。ときおり、人間が悪戯したかのようにコマクサの花が散乱していることがありますが、これはウスバキチョウの幼虫がコマクサの花と茎の付根の部分を好んで食べるからです。8月にはヒースの下に繭を作って蛹化します。そして、2年目は越冬し、3年目でやっと蝶になります。
生態
成虫は晴天無風の日を好んで活動し、イワウメやミネズオウなどの花によく吸蜜します。太陽が雲に隠れて気温が下がると、活動をやめてハイマツなどにとまります。8月下旬から9月にかけて黒岳やコマクサ平で新鮮なウスバキチョウが稀に見られることがあります。このような発生は、霜の降りた日や初雪の後の日なので、越冬するはずの蛹が寒さの刺激とその後の温暖な気候の影響で、間違って成虫になったものと考えられます。

 

 

アサヒヒョウモン

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分布
北部大雪(ニセイカウシュペ山から武華岳までの山塊を除く)、中部大雪、東大雪(音更山、石狩岳)、十勝岳連邦の標高1,700m以上の高山植物群落に生息します。国外では北極周辺のスカンジナビアから北シベリアまでの各地に、北米大陸のカナダからロッキー山脈南端のニューメキシコ高地まで分布しています。                             
食草
キバナシャクナゲ、クロマメノキ、コケモモなど
出現期
6月中旬から8月上旬
経年経過
1年目は4齢幼虫で越冬し、越冬後は摂食しないで5齢(終齢幼虫)、そして蛹化します。成虫は6月中旬から出現しますが、雪解けの遅い雪田群落地では、8月に入っても新鮮な個体を見かけることがあります。                             
生態
午前6時頃から活動を始め、オスは花の蜜や雌をもとめて飛び回ります。敏感で、なかなか人を近づけませんが、エゾノツガザクラやクロマメノキ等に蜜を吸いにきている時は、観察のチャンスです。曇って気温が下がると行動を中止して高山植物の中に降りますが、その場所に行ってみても、どのようにうまく隠れるのかほとんどその姿を見つけられません。

 

 

 

カラフトルリシジミ

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分布
大雪山、日高山脈、天塩岳、斜里岳、知床半島、道東の平野部(野付半島、風蓮湖、根室半島)。大雪山では、亜高山帯から高山帯ににかけて生息地が多いのですが、然別湖周辺の生息地のように標高1,000mという場所もあります。また、赤岳登山口銀泉台の駐車場のクロ-バに吸蜜に来ていることもあります。国外では、ヨーロッパのアルプス山地、スカンジナビア半島からカムチャッカ半島までの各地、朝鮮半島北部、サハリン、千島列島から北米大陸のアラスカ地方まで分布します。
食樹
クロマメノキ、コケモモ、ガンコウラン
出現期
7月上旬から9月上旬
経年経過
1年目は3齢幼虫で越冬し、翌年新成虫が出現します。
生態

午前6時頃から活動を始め、ハイマツの周辺や食草の周りを活発に飛び回り、時々花に吸蜜にきたり日光浴をしたりします。天候が悪くなったり夕方になると、ハイマツの枝の先にとまる姿が見られます。濃い緑色のハイマツの枝先に、翅の裏の白いカラフトルリシジミがとまっていると、まるでハイマツに小さな白い花が咲いたように見えます。 

 

 

 

ダイセツタカネヒカゲ

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分布
北部大雪(ニセイカウシュペ山から武華岳までの山塊を除く)、中部大雪、東大雪(音更山、石狩岳、ニペソツ山)、十勝岳連邦の標高1700m以上の風衝地でみられますが、十勝岳連峰からは、確実な記録はみられません。日高山脈(幌尻岳、戸鳶別岳)では、カール上部のガレ場に生息します。国外では、カムチャッカ半島から北米大陸北部に分布しています。
食草
ダイセツイワスゲ、ミヤマクロスゲなど
出現期
6月下旬から8月上旬
経年経過
1年目の冬は2~3齢幼虫で越冬、翌年は5齢(終齢)幼虫まで成長して再び冬を越します。3年目、越冬からさめた幼虫は蛹になり、6月下旬から成虫になります。
生態
午前5時頃から活動を始めます。飛んでいてもすぐ岩や地面にとまり,翅を閉じて横倒しになります。この時、翅の色が地面に似ているため、よく見失います。大変敏感で、人が1m以内に近づくと、すぐ逃げてしまいます。コケモモ、ミネズオウ、イワウメ等の花の吸蜜に来ます。

 

 

 

クモマベニヒカゲ

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分布
利尻山、北部大雪、中部大雪、東大雪、富良野岳の森林限界付近の草原に多くみられます。最近、大雪湖の近く(標高800m付近)や、国道39号線の道路周辺にも生息地があることが分かりました。大雪の高山蝶では唯一、本州にも分布しており、また、天然記念物には指定されていない蝶です。
国外ではヨーロッパからシベリア、サハリン、カムチャツカ半島、朝鮮半島北部まで分布しています。
食草
ミヤマクロスゲ、リシリスゲ、イワノガリヤスなど
出現期
7月中旬から9月までみられます。
経年経過
卵で越冬し、2年目は4齢幼虫で越冬、3年目になり蛹化・羽化します。
生態

日当たりのよい草原を午前7時くらいから活動を始め、花を求めてゆるやかに飛び回ります。個体数の多い五色ヶ原や、銀杏が原では、沢山の蝶が舞っている姿を見ることができます。標高の高い生息地では、ミヤマアキノキリンソウや、ナガバノキタアザミの花に集まりますが、標高の低い場所では、林道や国道の縁のハンゴンソウやクルマユリの花の蜜を求めて集まってきます。

 

作成にあたり、(写真、解説文)保田信紀氏、野田佳之氏、鈴木敏春氏のご協力をいただきました。